2008年5月21日水曜日

非抜歯治療




最近、2例ほど連続して非抜歯で治療を行った症例をみました。他県で治療をおこなったが、転住のため当院を訪れました。一例はそこそこ咬合はまとまっていましたが、患者さんは口元が突出しているのが気になるとのことでした。もう一方は、上唇が出ているのが気になるようです。いずれも抜歯症例ではないかと思います。

歯がでこぼこしている場合、歯を並べる方法として拡大という方法があります。横、後ろ、前に歯列を拡大して歯を並べる場所を作ります。またディスキングといって歯の両端を少し削って隙間を作る方法もあります。上あごが狭い場合、上あご自体を横に広げることができるので、この方法は有効ですが、下あごを広くすることはできません。奥歯を後ろにもっていく方法も最近ではペンディラム装置やインプラント矯正でかなりできるようになりましたが、限界があり、あまり後ろの奥歯を送ると、奥歯自体が咬まなくなります。最も簡単でよくやられるのが前歯を前に出して隙間を作るやり方です。上記の2例ともこの方法を用いています。

この場合、最も問題になるのは口元の突出感です。よくゴリラの顔になると言いますが、歯が前に出ることで口元が出てしまいます。当然、安易に健全な歯を抜いて治療することはよくないことですが、そうかといってせっかく治したのに、口元がもっこりしていては気になります。

もともと口元が突出していて安静時も口が開いているようなら、非抜歯での可能性は低く、むしろ抜歯をして積極的に口元を引っ込める必要があると思います。私も小児歯科に3年ほどいた時は、どうも健全な歯を抜くには抵抗があり、何とか非抜歯で治療しようという気持ちはわかります。ただ十分に患者さん親と相談して治療すべきだと考えます。その上でどうしても非抜歯ということでしたら、治療してあとで口元も突出感が気になるようなら抜歯して再治療します。これまで診断では抜歯の方がよいと思いながら、患者さんおよび親からどうしても非抜歯で治療してほしいとう症例が5例ほどありましたが、結果的には抜歯して再治療しました。中学、小学校の時は歯を抜くのが怖いため非抜歯を選択しても高校生頃になると外観が気になり抜歯治療を求めるようです。

お隣の台湾、韓国では症例の半分近くが上下の前歯が飛び出た上下顎前突と呼ばれる不正咬合で、口元をすっきりしたいということで矯正医を訪れるようです。逆に白人では口びるがやや厚いのがセクシーということでやや口元を出す非抜歯が増えているようです。人種が違うため必ずしも欧米の流れとは違ってきます。

写真のような上下顎前突を不正咬合と考えない先生も多くいます。噛み合わせが問題なく、口元が突出しているだけで、これは病気ではないとする考えです。見た目を治すことは医療ではなく、美容であり、そのために大事な歯を抜くのは医療に反するというものです(それじゃ前歯も金歯で治せばというと、これは見た目が大事だという矛盾もありますが)。基本的な考えとして、顔貌より咬合とする考えですが、矯正医はまず顔貌を第一に考え、次に咬合を考えます。患者さんの顔貌に対するコンプラックスがあれば、それを解消するのも医療と考えています。

非抜歯、抜歯に対する違いも、根本的にはこういった考えの違いを反映しているように思えます。どちらがいいというものでもありませんが、いずれにしても高い費用、長い治療期間がかかることですから、どこを治したいかよく相談して決めていただきたいと思います。

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