2009年2月20日金曜日

日本臨床矯正歯科医会2月例会



 2/18,19の両日、東京で行われた日本臨床矯正歯科医会の例会に出席してきました。この会は、日本の矯正専門医が集まった会で、現在500名ほどの会員がいます。上位団体としては日本矯正歯科学会があり、この団体は約6000名の会員がいますが、純粋に矯正専門で開業している会員は少なく、むしろ一般歯科で矯正に関心のあるひとが多いと思います。そういった意味では日本臨床矯正歯科医会は、純粋に矯正専門で開業している先生の会ですので、会員の目的や考え方も一致して、いつ行っても多くの刺激を受けます。矯正臨床で有名な先生も多く所属しており、勉強になります。

 今回の例会では、3つの講演会がありました。ひとつは「矯正歯科の日常診療の中に潜むアクロメガリー(先端巨大症)」と題して、東京女子医科大学の堀智勝先生と肥塚直美先生の講演がありました。成長ホルモンの過剰は心血管の肥大、糖尿病、高血圧と合併することが多く、早期発見、早期治療により心疾患や脳血管障害を予防できるとのことです。鑑別には成長ホルモンの分泌を調べるこことになりますが、特徴的な顔貌を示し、かみ合わせの異常も伴うため、矯正歯科の患者の中にも治療時に発見されることもあるようです。発症から確定診断まで平均で9年もかかるようですので、早期に発見することが重要なわけです。

 二つめは、民社党の櫻井充議員の「歯科医療が日本を変える」という講演でした。櫻井議員は私と同じ歳で、仙台一高の卒業生なので、私の大学の同級の何人かも彼の運動に参加しているため歯科医療の現状について政治家としては最も精通しています。アリコなどの外資系医療保険会社は、だれでも年齢を問わず、過去に病気だったとしても、安い保険料で治療を受けることができるとTVでうたい、多くの顧客を得ています。何も知らないひとにすればこれほどいい保険はないと思われるかもしれませんが、日本では国民健康保険という世界で最も優れた保険があり、はっきりいってこれ以外の保険に入る必要は全くありません。心臓移植すらも保険で受けられる国はほとんどなく、どんな貧乏なひとで基本的には医療を受けられる制度になっています。現状ではさまざまな問題点もありますが、それでも民間保険が主であるアメリカとは比較にならないほど恵まれた環境です。小さな政府、自由主義化はアメリカの陰謀であり、こういった外資系の保険会社は日本の保険制度を破壊して、アメリカのような状況にしたいと画策しています。医療も民間に委託した方が効率的であるといった考えは、ソビエトの崩壊に伴う社会主義的な考えの否定とともに発展してきましたが、教育と医療はすべての国民が受ける権利を有する基礎的なものであり、これは利益を求める企業と相容れないものですし、広告費や人件費などでかえって医療費の増大を生みます。一方、政府は財務上の問題から医療費の削減を求めましたが、老人が増え、医療サービスも増えた現状では、医療費の増加は必然的であり、さまざまな制度上の改革、例えばリハビリ日数の制限などは、すべて失敗しており、かえって前の方がよかったと思われるものばかりです。櫻井先生の講演ではこういったことについてくわしいデータを使って説明いただきました。

 三つめは、岡山大学の山岡聖典先生による「低線量放射線の健康への影響と医療への応用」と題された講演がありました。放射線と言えば、怖いイメージしかありませんが、低線量(0.2シーベルト)以下の放射線は、生活習慣病や老化の予防、症状緩和の可能性があるようです。このような微毒は毒を征して益を成す効果はホルミシス効果を呼ばれており、有名なのはラドン温泉の効果です。ただこれについては反対派も多く、少量の放射線も体に有害であるといった運動を展開している一方、原子力関係の企業は低線量の放射線は益もあるとしていて両者の考えは平行しているようです。当然、原爆といった強力な放射線は体に悪いことはわかりますが、線量と害との間にしきい値があるかといった点に違いがあるようです。低線量の効果を認める派はしきい値があり、それ以上の線量になれば害があるが、それ以下では逆に益もあると考えますが、しきい値はなく直線関係ととらえる派はいくら低線量でも害があるとしています。どちらが正しいか私にはわかりません。ただ日常でも我々は放射線をいつも浴びていて、放射線被曝量としては年間2ミリシーベルトになります。私のところでも毎年定期検査ではレントゲン写真を撮影します。パントモ写真は日常の被爆線量の2,3日分、セファロ写真で1週間分くらいと思います。また首から下は、防護服を着せますので、放射線の影響を受けやすい内蔵部では1/100の線量になるため、これはほとんど影響がないといってもいいのではないでしょうか。患者さんの中には、レントゲン撮影を極度に恐れ拒否される方がいますが、そういった方は飛行機にも乗れません。10000mの高空では地上の100倍ほどの放射線被曝になるからです。ただ最近ではCTの普及により、ちょっとしたことでもCTをとる傾向があり、以前、ある学者が歯の根っこの治療を立体的にみるために歯科用CTの開発研究をしていましたが、これはちょっとやり過ぎと思います。CT一回の被曝量は日常の被爆線量の数年分にあたる量であり、歯科用のレントゲンと同じ尺度では論じられません。歯科でもインプラントをする先生は、CTで撮影しておかないと、何かあって訴訟された場合負けるといって、2000万以上する機器を買う先生もいますが、一旦買うと人間は使いたがるもので、過度の使用になる危険性を有します。同様なことは医科でも多くあり、世界一CTの高い日本では、あまりに容易にCT撮影が行われているきらいがあり、注意が必要かもしれません。国民が医療事故を警戒し、それに備えて医者は過度の検査を行い、それがまた体に害を与えたり、医療費の高騰を招くといった悪循環がおこる可能性もあります。

いつもこの時期を利用して、東京に住む高校のサッカー部の友人が集まって会うことにしています。昔は高校の同級生と飲もうという気持ちもあまりありませんでした、この歳になるとこれほど愉快で、楽しい集まりはありません。

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