2010年10月17日日曜日

山田兄弟30



 来年は辛亥革命100周年で、中国各地、台湾でも大掛かりな催し物が企画されている。すでに中国、台湾では多くの孫文関連の記念館や博物館があるが、100周年を前に、設備、建物の拡張が行われたり、新たな記念館が作られている。ただ孫文関係の展示物となると本土には少なく、日本に多くあるため、関係者は展示物収集で大変であろう。

 100周年に際しては、他の記念事業として辛亥革命に協力した日本人を描いた日中台合作の映画も作られるようである。今のところ詳細は不明であるが、孫文の革命を金銭的に助けた梅屋庄吉さんのひ孫、小坂文乃さんによれば、監督菅原浩志で、タイトルも「レボルーション1911」という日中合作映画の話がだいぶ進んでいるようだ。現在、中国、香港でも上映できるためにシナリオの許可申請を行っているようだ。小坂さんのインタビューでは梅屋庄吉さんがシナリオまで書いて、生前製作したかった「大孫文」という映画を是非、上映したいと抱負を語っていた。内容的には梅屋夫婦と孫文夫婦との友情を描いたものとなろう。

 これと同じ話かもしれないが、角川映画による日中合作映画の話もある。孫文の革命を支えた日本人がいたことを記した本として『革命をプロデュースした日本人』(講談社)と、『孫文の辛亥革命を助けた日本人』(ちくま文庫)が 出版されている。これらをベースにしながら、孫文とその日本人との手紙など、新たに見つかった遺品とともに、ストーリーを構築すると見られている。前者の作品は梅屋庄吉、後者の作品は山田良政、純三郎兄弟を描いたもので、孫文とそれを支えた日本人に焦点を当てたものとなる。

 また夕刊フジ紙面では8月23日から、歴史作家、井沢元彦氏による連載小説『友情無限 孫文に1兆円を与えた男』が始まっている。これは梅屋庄吉を主人公として小説で、大手映画会社がこの小説を原作として映画を作るとの話もある。

 いずれも企画段階だが、実現する可能性は高い。ちなみに梅屋庄吉がやりたかった映画「大孫文」の内容が「革命をプロデュースした日本人」に載っているので紹介したい。

 この映画で梅屋は孫文の生涯を描きながら、日本が革命の拠点になったことや、革命を支援した日本人の存在を中国の人々に知らしめたい。それによって日中関係を改善に向かわせたいというもので、昭和5年に企画された。登場人物は、孫文、蒋介石、黄興、陳小白、宋慶齢、袁世凱、ジェームス・カントリー博士、頭山満、犬養毅、山田良政、梅屋庄吉で、オールカラー5時間に及ぶ大作だったようである。資金不足と日中関係の悪化により中止となった。

 現在、尖閣諸島問題で、日中がぎくしゃくしている。日本、中国政府双方が鎮静化に必死であるが、それに逆行するような反日、反中デモが行われ、なかなか友好関係の修復のきっかけが掴めない。この原因としては、中国における経済格差、富裕と貧困の二分化などの社会的な問題と、それに不満な若者の屈折がその背後にある。20歳の若者からすれば、70年前の日中戦争というのは全く実感のない世界であり、それを感覚として憤るいわれはない。また尖閣諸島の問題にしても、おそらくは多くの若者からすればその位置すら知らないところで、その領土うんぬんの話はデモに参加する若者の生活には全く関係はない。中国からの留学生を数多く接しているが彼らをみていると、中国人の本音と建前の使い分けは実にうまい。本音としては自分たちの暮らしが幸せで平和であればよいという素朴なもので、政府に関しても、自分たちに益するなら、支持するし、従うといったものである。反日デモくらいでガス抜きしてもらった方が政府、若者にとっても都合がよく、富裕層への反発という形でガスが噴出するのが最も怖い。昨日のテレビで、上海のクラブで踊る金持ちの若者たちを映していた。VIP席は日本円で5万円だそうで、こういった自分たちの年収にも相当するところで遊ぶ同世代の若者、職もない、貧困な若者からすればこれほど憎悪の対象はない。プロレタリアートによるブルジョアへの憎悪と反乱、これこそが革命であり、社会主義国でプロレタリアート革命が起きたのでは、それこそシャレにもならないし、国の根幹にも関わる。

 中国政府は、国民の不満のはけ口として反日、愛国教育をおこなったが、あまり効果はなく、かえって日本の反発や、韓国以外のアジア諸国の共感もなかった。酔っぱらい船長の気違いじみた行動を英雄的な行為としなければいけない世論を作ったのはこういった教育結果であり、今回の強引な中国政府の対応により、うちの家内のような普通の主婦さえも嫌中にしてしまったのは、まずかった。さらにこのことは、日本の防衛意識を喚起させ、防衛費増大に対する抵抗はなくし、日米軍事的同盟を強固にする。実際、北朝鮮のミサイル発射が問題になると、すぐに軍事衛星、ミサイル防衛が整備されてきた。現在では、ロシアの脅威は減り、北朝鮮とはいいながら、日本の仮想敵国は完全に中国となっている。今回の事件は、完全にこういった考えをプッシュするもので、両国の軍事競争につながる恐れもある。さらに軍事競争が愛国主義と連動し、ちょっとした事件が、マスコミが取り上げ、大げさになっていくのは、先の戦争での朝日新聞などに代表されるマスコミで経験済みである。

 力を背景にした強権的な態度は、各国の反発を招くだけであり、まず青少年の教育の中に、愛国主義も結構だが、日中の友好、孫文の辛亥革命を助けた日本人を取り上げることは重要と思われる。日本とトルコが友好な関係を示しているのは、エルトゥールル号遭難事件をきちんと教科書で紹介していることも要因のひとつである。日中が友好な関係になるためには、嫌いなところがあっても構わないし、嫌いなひとがあってもいいが、少なくとも、山田兄弟や梅屋庄吉のことをきちんと両国で伝えることが、長い意味では両国の得となるのではないかと思う。それ故、来年の辛亥革命100周年はいい機会である。日本、中国、台湾政府とも、三国の友好の象徴として梅屋や山田と孫文の関係を描いた映画を取り上げてほしいし、上記の2冊の本の中国語への翻訳なども期待したい。

ちょっと長いが小坂さんのインタビュー

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