2011年12月21日水曜日

ママチャリ




 チュスター・リーブス著「世界が賞賛した日本の町の秘密」(洋泉社新書)は、アメリカ人からみた日本のママチャリ文化を論じたユニークな本である。私のような自転車好きな者から見れば、ママチャリというと、とても世界には恥ずかしく出せないしろものと考えていたが、この本を読んで改めて認識しなおした。自転車ファンから見れば、ママチャリはすべてダサイく、重いし、スピードはでないわ、カッコ悪いし、おまけに中国製が氾濫しており、安くて信頼がおけない。さらに個性はなく、どうもあの自転車に愛着は持てそうにない。ところが著者は、このママチャリこそはコンパクトシティー、省エネ社会の切り札としている。

 ママチャリは確かに歩道をゆっくり走るには、優れており、ロードレーサーのような華奢なものでは、歩道と車道の段差がパンクの原因となるため、怖いし、振動も多い。雪国では融雪路の蓋がちょうどタイヤの幅くらいの溝になっているため、万一この溝にタイヤが挿まれると大事故に繋がる。さらにロードレーサーではスタンドがないため、自由に止められないし、また荷台、かごもないため、買い物したものはデイパックなどを背負わないといけない。また姿勢も前傾が基本となるため、疲れやすいし、尻も痛くなる。ということで、実は私もちょい乗りにはママチャリを使っている。便利だからだ。

 よく考えると、日本のママチャリは著者が言うように類型を見ない。多くの国では実用的な自転車はあるものの、少なくとも男性用と女性用に別れている。ところがママチャリの基本形は、フレームがステップスルータイプで、いわゆる女性用のものを男女とも使っている。欧米ではこのステップスルータイプは女性用、ダイヤモンドフレームが男性用と別れていて、男性がステップスルータイプの自転車に乗るのは抵抗があるようだ。少し前まで日本でもそうだったが、次第に抵抗は薄れ、今ではどうもサドルの前に水平のチューブがあると乗りにくいと感じてしまう。

 ところがこんなママチャリだが、実力はすごく、うちの次女は毎日高校までの3kmの道を通学していたし、友人の一人は10km近い距離を1時間ほどかけて3年間自転車で通学していた。へたなサイクリストよりよほど走っている。あの形は、ある意味、日本の道、町に合わせた究極の形なのであろう。スピードこそでないものの、歩道を故障なく、走ることができ、安くて、長持ちする。パリで始まったシティーサイクルシステム(大規模貸し自転車事業)に用いられているペリブ自転車もママチャリの模倣とも言える。またコペンハーゲンのレンタルサイクルもママチャリに近いが、荷台、かごもなく、スタンドもちゃっちくすぐに倒れそうだ。ママチャリの方が使いやすそうだ。

 最近、歩道上の自転車走行を禁じる動きがあるが、著者はスピードが出ない、ママチャリであれば、歩道を整備して走るようにできないかと提案している。歩行者の自転車による事故も多いが、逆にあのママチャリで車道を走れというのも危険である。著者は、人、自転車はスイスイ、車が一台ぎりぎりに入れるような道、そして歩いて、自転車で買い物から、病院、美容院、学校、とすべての生活がまかなえるような町づくりがエコの観点から世界的な流れとみる。

 かって日本人は、車で買い物に行き、一週間分の食料を大型の冷蔵庫に入れるようなテレビでみるアメリカ型の生活に憧れていたし、それが生活の目標でもあった。ところがそれが実現されるようになると、今度はアメリカ型大型消費生活が見直され、その象徴が自動車社会から自転車社会への変換ということになろうか。

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