2012年3月25日日曜日

保定について



 最近は、弘前の郷土史関係のことばかり書いているので、おまえは矯正歯科医かと叱られそうなので、矯正治療に関することも話してみたいと思います。

 矯正治療で、古くから、そして現在も解消されていない問題のひとつに、“後戻り”があります。矯正治療できれいな歯並びを作ったとしても、元に戻ろうとすることで、でこぼこな歯をまっすぐに並べても、再びでこぼこになったりすることです。患者さんにとっては、せっかく長期間の治療に耐えて、きれいな歯並びを得たのに、これが後戻りしたのではいやでしょう。

 “後戻り”は、基本的には元の状態に戻ることですので、かみ合せの逆の反対咬合では、かみ合わせが逆に、上の前歯が飛び出ている上顎前突では、出っ歯に、でこぼこしている叢生では、でこぼこに、前歯が開いている開咬では、再び隙間があくという風になります。

 この後戻りを防ぐのが、保定装置と呼ばれるものです。種類は、大きく分けて、ワイヤーで固定した固定式装置と、取り外しのきく可撤式装置に分かれます。矯正装置を外した後、できるだけ早くこの保定装置を入れなくてはいけません。当院では撤去の翌日に保定装置を装着するようにしています。大学では午前中に撤去し、その日の午後に保定装置を入れていましたが、さすがに開業してからは、このようなことはできません。いずれにしても出来るだけ早く保定装置を入れる必要があります。特に撤去後の最初の1週間、1か月は非常に戻りやすく、この期間に保定装置を使ってもらえないとあっという間に後戻りします。一旦戻って歯並びをもう一度きれいにするには、矯正装置をつけなくてはいけませんので、患者さんにとってもこちらにとってもいやなことです。

 可撤式保定装置の場合、だいたい2年間使用してもらい、その後は、2,3日に一回、1週間に一回、2,3週に一回と使う間隔を開け、様子をみてから保定装置を撤去することにしています。ただ下の前歯のでこぼこについては、その後もでこぼこになることがあります。これは晩期の後戻りというもので、下あごの成長、咬む力、親知らず?によるものとされています。ミシガン大学の有名な研究で、成人男女の40年後のセファロ写真を比較した研究があります。驚くことに上下のあごの位置は変化しています。これは成長ではなく、筋肉、皮膚組織の加齢に伴う変化にあごが対応したことによります。さらに歯周疾患により歯を支える骨が吸収していくと、加速されていきます。私も若いことは下の前歯もきれいに並んでいましたが、今はでこぼこしています。これを後戻りと呼んでいいのか、難しいのですが、これを防ぐとなると保定装置を一生使い続けなくてはいけません。

 うちにも保定後10年以上たつ患者さんが、ようやくぼちぼち来るようになってきました。多くは、下の前歯のでこぼこが気になって来られます。保定装置を使っておらず、電話が来た時にはかなり動揺しますが、実際見てみるとわずかなでこぼこでほっとするというのがほとんどです。希望がありましたら再治療します。

 最近の保定装置の種類は、日米とも大体似たような傾向になっています。アメリカでは上顎では、ホーレータイプ(ラップアラウンド含む)が53.6%、バキュームフォームタイプが47.5%、固定式が13.0%、下顎ではホーレータイプが32.6%、バキュームタイプが32.7%、固定式が48.0%となっています(重複含む AJO 140(4)520-526,2011)。日本での同様な調査では、ラップアラウンド56.6%、ホーレータイプ18.5%。バキュームフォームが42.6%、固定式が25.9%、下顎ではラップアラウンド18.5%、ホーレー20.3%、バキューム33.3%、固定式40.7%となっています(日臨矯歯誌 23(1)2011.3−11)。

 日米ともマウスピースのようなバキュームフォームタイプが次第に多くなってきています。ちなみに私のところでは、ホーレータイプ(ラップアラウンド含む)とバキュームフォーム(Essix)の比率は、大体1:3くらいで、患者さんにとっては目立たないこと、こちらにとっては製作が容易なため、今後とも普及していくでしょう。

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