2012年4月18日水曜日

矯正専門医の抜歯・非抜歯


Q&Aでわかる「いい歯科医院」(週刊朝日MOOK)から、アンケートがきた。2009年から始まった企画で、私も一応学会の編集委員を長年やってきたのでわかるが、結構おいしい仕事である。というのは本の半分以上は広告で、その広告収入だけでほぼ経費はまかなえ、おつりがくるのではと考えられる。さらに広告主が患者への配布などの利用するため、大量購入するため、大体の売れ数は確保できる。そのため541ページという厚い本の割に安く、一冊800円となっている。

前回、今回のアンケートでも、各医院の抜歯率が記載するようになっているため、平成23年度の動的治療終了して、保定に入った患者数を調べると、マルチブラケット装置をつけて治療が終了したのが43件、そのうち第三大臼歯以外の抜歯を行った症例は29件(67.4%)、非抜歯の症例が14件(22.6%)であった。ちなみに顎変形症、辰顎口蓋裂の患者さんはこれに含まれない。

2011年度のムックから抜歯率の記載のある286件の矯正専門医院(専門医の資格をもつ)について、その平均をだすと53.4%、標準偏差は21.8%となった。当院の抜歯率は全国平均よりはやや高い。上記の図に示されるように一番多いのは60-70%、次に多いのが50-60%であるが、標準偏差の値も大きく、最小のところは4%、最大のところは95%であった。

この値をどう見るかというと、まずこの雑誌の性格は集客を狙ったものであり、どこの歯科医院もできるだけ抜歯率を低めに記載する傾向をもつ。というのは複数の矯正歯科医院がある場合、患者はどうしても歯を抜きたくないため、抜歯率の高い医院は敬遠する傾向がある。そのため実態よりは抜歯率は低くでた可能性がある。というのは、あまりこういった傾向と無関係な大学病院では、8つの大学歯学部附属病院の平均は63.9%、標準偏差は16.0%となっており、開業医の数値より高い。さらに東京、大阪などの都市部では、矯正歯科の普及率が高く、より軽度の患者が治療を受けるため非抜歯の患者がいきおい多くなるのかもしれない。ちなみに北海道、東北の28件でみると、平均は56.9%、標準偏差は16.2%となる。

以前クインテセンスの別冊に投稿した論文、「非抜歯、抜歯矯正治療の選択基準をどこにおくか」(臨床家のための矯正YEAR BOOK ’99)では全体の20-30%は明らかに抜歯、非抜歯となり、残り40-60%のボーダラインをどうするかによって抜歯率は変わると書いた。その当時に比べて矯正用インプラントの出現により確実に非抜歯治療を増えたと思われるが、それでも20%以下にすることはかなり難しい。

矯正のための抜歯は、便宜抜去と呼ばれ、何らかの理由によりやむにやまれず抜くと解釈されている。一番の理由は歯とあごの大きさのずれ、すなわちあごの大きさに比べて歯が大きくて、でこぼこしている場合。当然重度になると抜歯比率は高くなり、逆に軽度の場合は歯を抜かなくても歯列の拡大、歯のディスキングで解消できる。また上下顎、上下切歯のズレ、例えば、上顎前突では上の歯を中に入れなくてはいけないが、大臼歯を遠心移動できれば解決できるケースがある。従来の方法では無理だったケースも矯正用インプラントで治すことができるようになった。また反対咬合では、代償的な改善のためには上の切歯を前に出すため、下の歯列全体を後方に移動できれば非抜歯で治療できる。また機能的矯正装置などを早期に使うことで下顎の成長促進がうまくいけば、これも非抜歯の可能性が高まる。こういった風に最近では色々な方法により非抜歯による治療の可能性は増加したが、それでも非抜歯と抜歯を分ける最大の要因は、口元の突出に対する考えの違いである。先ほどのムックを見ても、口元をすっきりさせたい、後退させたと考える先生は、どうしても抜歯率は高い。日本人の場合は元々、下あごが後退し、口元が突出しったケースが多いため、歯並びだけでなく、口元の突出も完全に治したいとなると小臼歯を抜歯して口元を入れるケースが多くなる。

アジア人、黒人の典型的な顔は、やや口唇が突出した状態で、これが正常である。ただ韓国や台湾の先生に聞くと、矯正治療の目的の多くに口唇を引っ込めたいという要望があり、抜歯ケースは割合多いと言っていた。逆に欧米人では元々口唇が引っ込んでいるケースが割合あり、また歯列も横に狭いケースが多い。こういったケースでは前方、側方への拡大で相当スペースを稼げるため非抜歯となる場合も多い。

私の場合、まず口唇を閉じてみて、オトガイ部に筋緊張が起こる場合は、ウメボシの種のようなしわ、まず抜歯ケースとなる。さらに非抜歯でするよりは抜歯の方が簡単なケースでは抜歯ケースとなる。つまり6mm遠心移動するのは大変で、上下とも大臼歯をこれくらい移動させるのであれば、臼歯部の後方のスペースを考えると、抜歯ケースとなる。

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