2012年12月15日土曜日

風立ちぬ


 宮崎駿監督の新作が決まった。「風立ちぬ」という堀辰雄の有名な小説と同じ題であるが、内容は零戦の設計で有名な堀越二郎の物語となるようだ。モデルグラフィックという模型雑誌で連載していたもので、早く本にならないかと思っていた作品だったが、いきなり映画化ときた。

  宮崎監督は、もともとミリタリーものが好きなひとで、これは私にもわかるが、戦争が好きなわけではなく、何となく、軍用の機械が好きなのだ。これは好き嫌いなので、どうしようもないもので、宮崎監督もこれまでも多くの作品を、こういった模型雑誌などで発表してきた。漫画家としての仕事はほぼ、これだけであろうし、おそらく雑誌の発行部数からすれば、それほど多くの原稿料ももらっていないだろう。それでも、好きなものは書きたいのであろう。

 実際、この種のもので映画化されたものは、「紅の豚」しかないし、個人的には宮崎作品の中でもこの作品が一番すきだが、この作品にしても、水上機という特殊な飛行機を描き、直接的な戦争は描かれていない。こういった配慮をしたにも関わらず、評価は低く、何かの雑誌で、これに懲りて、自分の趣味と映画監督の仕事は分けると発表していた気がする。「紅の豚」の一番の魅力は、美しい空とそこを飛ぶ飛行機の美しさであろう。監督自身も夢中になり、相当力を入れた表現となっている。アニメ史上あれほど美しい空はない。

 堀越二郎というとまず零戦を思い浮かべるが、彼の最大の功績は96式艦上戦闘機の設計であろう。96式艦上戦闘機といっても、飛行機ファン以外ほとんど知らないだろうが、昭和10年ころに活躍した飛行機で、この機種により、日本の航空機もようやく世界基準を越えたものとなった。それまでの飛行機は今の中国と同じく、欧米の機種のコピーに近いものであった。始めて九試単座戦闘機一号機(96式艦上戦闘機の試作)飛行したとき、最高速度が444.5kmをたたき出し、速度計の故障かと間違えられたという。さらに二号機の試乗では、前原中将は「外国にいるようだ。こんな愉快なことはない」と大いに喜んだ。この飛行機は、空気抵抗の軽減のために、世界で初めて沈頭鋲と皿子ネジ/鋲止めナットが採用されたし、落下式増槽も同様である。新型のフラップといい、すべて後の零戦に受け継がれているが、ようやく欧米の飛行機のレベルを越えた国産戦闘機が完成した。もちろん、欠点もないわけではなく、あまりに軽量、空気抵抗の少ない、美しい飛行機を目指したため、機種の発展性が少なく、ドイツのBf109やイギリスのスピットファイアーのようにエンジンの発展に伴って、性能向上型ができる余裕がなかった。96式戦闘機もそういったわけで寿命は短く、太平洋戦までの短い期間が活躍時期といってもよい。このことは、零戦でもいえ、零戦も21型に尽き、その発展型は21型を越えることはなかった。Bf109B型が最大速度470kmであったが、後期型のK型では740kmと格段に性能が良くなっているのと対照的である。

 映画は、おそらく零戦までは扱わないであろう。96式戦闘機でも試作機1号機(九試単座戦闘機カ-14)は、美しいカモメと呼んでもよい飛行機で、逆ガル型の主翼はスマートな固定脚と相まって美しい。量産型のものは、通常の水平翼となっているが、当時の塗装、飴色、赤、白のコンビネーションはまるで、レーサ用の飛行機のようで、「世界の傑作機 96式艦上戦闘機」の野原茂さんの描く横須賀海軍航空隊所属の大石兵曹長搭乗の機体は美しい。

映画の完成が待ち遠しい。


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