2013年12月1日日曜日

防空識別圏


 中国の防空識別圏問題が世間を騒がしている。これまでの情報を集めると、中国政府は自衛隊、米軍機の識別圏への侵入は日時、場所、機種とも把握しており、それに対して中国空軍はすばやいスクランブルを行ったとしている。ところが防衛庁はこれを否定し、こういったスクランブルはなかったとしている。

 自衛隊、米軍機の識別圏への侵入は、過去の情報を勘案して、中国のレーダーの探索範囲を越えたところを通過している。中国の沿岸部からのレーダーでは地球の球面を考えると、尖閣列島の東側を飛ぶ低高度の飛行物体を捉えることはできない。それをカバーするには早期警戒機を上空に待機し、常時、監視する必要がある。中国空軍にはKJ-2000という早期警戒機があり、現在、4機が配置されているというが、探索距離は200-400kmと言われ、総合的な性能では自衛隊のもつE-767(4機)とは比較にならない。さらに日本には下甑島にある固定式警戒管制レーダー、通称ガメラレーザーもあり、ほぼ中国沿岸部からの飛行機の発着は探査できる。自衛隊が日本の防衛識別圏への侵入を把握できるのに対して、中国軍は識別圏をまだ完全にカバーしきれないのである。政治的な理由で識別圏を広げたのであろう。F15E-767など自衛隊機10機、米軍の偵察機2機が識別圏に入り、それをスクランブしたというが、通常、自衛隊機は2機編成が原則で、10機も一日で飛行させることはなく、また一機550億円もする虎の子のE-767を中国のレーダーに捉えられるようなへまはけっしてしない。また現在のレーダー技術は、大きさはある程度、把握できたとしても機種までは、目視あるいは識別無線でようやく確認できるにすぎず、中国政府のいうような機種、飛行空路を完全に把握していたという報道は疑わしい。

 さらに言うと、今後、F-22F-35といったアメリカのステルス機が投入されると、こういった識別圏は全く無意味なものとなり、アメリカもF-35の自衛隊への導入を優先するであろうし、中国軍のレーダー技術を支援するイスラエルなどのへの圧迫も強めるであろう。レーダーなどの最新技術は、機械の修理、更新がなければすぐに陳腐していくもので、現状では、中国国産技術だけでは無理があろう。

 また北朝鮮のミサイル問題を契機に日本では、国産の偵察衛星を打ち上げ、光学4機、レーダー3機の運用が現在なされ、その実際の分解能も数十cmの精度になっている。さらにGPS と呼ばれる位置情報衛星も国産のものがあり、最新の準天頂衛星初号機「みちびき」では測定誤差は1m以内となっており、両者を組み合わせることで、精度の高い軍事利用が可能となっている。また高い命中率を誇るAAM-4空対空ミサイルは100kmの有効距離を持ち、E-767という高性能の早期警戒管制機と組み合わせることで、大きな武器となる。こういった中国のとってかなりのやっかいなシステムがすでに完成している。

 世界最大の中国官僚制の弊害は、過去にも1958年の「大躍進」で見られる。省の役人が自分の業績を上げるため、不作にもかかわらず、米の収穫量をどんどんとつり上げ、それが数値となり、過酷な農民からの取り立てにより、2000万人以上の餓死者が出たという歴史がある。役人、官僚にとっては自分の地位を守るために、2000万人死んでも何ともないのである。これが官僚制の究極の問題点である。今回の騒動も軍という官僚組織の為せる技であり、陸軍が牛耳っていた軍部に対して、海軍、空軍がその存在を誇示しているのに他ならない。

 今回の防空識別圏における中国空軍の失態を認めることは決してない。かって日本帝国海軍は台湾沖空戦の成果を過大に見積もり、最後までそれを押し切った軍令部の姿にだぶる。うその上にうそを重ねる官僚制度は、どこかで破綻するが、その被害は大きい。中国国内の世論はやかましいが、今後とも長期に防空識別圏を維持するには、大変な労力と維持費が必要であり、日米が散発的に識別圏を犯し、その事実を宣伝することで、ますます混乱に拍車をかけることは可能となろう。その場合、ロシア、インドなどの周辺国からの圧迫、内部の騒乱も増加し、それは中国当局にとっても望むものではない。中国はメンツを重んじる国であり、こういった失態を暴く、つけこむことはよくない。一方、合理的な考えができる国でもあり、外交的な交渉でうやむやにするのが現実的であろう。日中米の首脳会議を期待したい。

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