2014年11月3日月曜日

歯並びの良否は就職に影響するか


 きれいな歯並び、笑顔が就職の際に利点になるのか。こういった研究は、研究の前提としてかなりバイアスがかかる、つまりきれいな歯並びの方が就職にはプラスとして働くという思い込みがあるため、ちょっと研究しにくいテーマである。もし関係ないという結果がでれば、かなり反発をくらうからである。

 最新号のアメリカ矯正歯科学会誌(AJO-DO,146(4),2014)にこういった研究があった。題名は「Do dental esthetics have any influence on finding a job?」というモロのテーマで、ブラジルのMatheus M. Pithonらの研究である。

 100名の企業の就職担当者に10名の笑顔の写真、矯正治療前後の悪い歯並びと理想的な歯並びの笑顔の写真を見せて10点満点で評価させる。

 1)この人を雇いたいかという質問に対しては、不正咬合は平均で5.20、きれいな歯並びでは5.64で有意差があった。2)正直そうにみえるかの質問については、それぞれ6.726.72で差はなく、3)知性的にみえるかの質問については、それぞれ6.506.64で有意差があり、4)時間通りに仕事ができるかについてはそれぞれ6.346.35で差はなかった。

 つまりきれいな歯並びで有意差があった項目は、雇いたいかと知性的かという質問であった。ただ標準偏差も大きく、前者は2.262.22、後者は1.571.58で、5%の有意水準であった。

 この研究では少し、小細工がしてあり、治療前後の2枚の笑顔(服は同じ)をランダムに2つの群(A,B群)に分け、ネガティブコントロールとして悪い歯並びの同じ写真を2つのグループに入れ、逆にポジティブコントロールとして理想的な歯並びの同じ写真を2つのグループに入れた。AB群では差はなく、ネガティブコントロールでは評価はいずれの群の低く、ポジティブコントロールでは高かった。平均と同じ傾向があり、ネガティブコントロールでは雇いたいかの質問には4.57.4.45でかなり低かったが、ポジティブコントロールではそれぞれ8.177.21でかなり高かった。同様に知性的かの質問では、ネガティブコントロールでは6.526.17であるのに対して、ポジティブコントロールでは、8.257.78で高い。ただネガティブコントロールの被験者はやや暗い表情であまり美人でないのに対して、歯並びのよいポジティブコントロールの被験者は明るく、美人である。逆の被験者であれば、また違った結果になるかもしれない。

 アメリカの場合、歯並びが悪い=親が貧しい、無教育といったイメージをもたれやすく、ひいては就職に不利な条件となることは十分にありうる。同じ能力、学歴、見た目であれば、歯並びのいい人を選ぶであろう。日本でも実は、自衛隊の身体測定に虫歯とともに歯並びの項目があり、評価の対象となる。治療中の場合は治療途中で減点とならない。青森には陸上、航空、海上自衛隊の隊員が多くいるが、ヘリコプター搭乗員、輸送機操縦士など職種を変えたい場合、歯並びの善し悪しが条件となるため、矯正治療を希望する隊員が何人もいた。同じようにテレビのアナウンサーやフライトアテンダントも歯並びが悪いと、まず採用されない。矯正治療をしておくことが、就職試験を受ける前の常識となっている。

 アメリカの場合は、日本以上に歯並びが悪いと就職できない仕事が多くあり、親としては子供の機会を減らすことは出来るだけ避けようとする。つまり子供がなりたい仕事、機会を歯並びが悪いため、断念するようなことはさせたくないし、したくない。そのため、ある程度の収入、学歴のある親は必ず子供に矯正治療を受けさせる。歯並びが悪いとアメリカ大統領にはなれないが、ひょっとすればうちの子も将来、大統領になるかもしれないと考えるのである。

 それでもここ20年くらいで日本の歯並びについての意識は変わってきた。たまに東京などに行くと、中高校生で矯正装置を付けている子供が多いし、歯並びがひどい人もそんなにいない。

0 件のコメント: