2015年1月22日木曜日

矯正歯科のグロバリゼーション化



 私が大学病院にいたころですから、30年前のことです。反対咬合の治療と言えば、「チンリン」、すなわちチンキャップとリンガルアーチによる治療が一般的でした。上あごに比べて下あごが大きい症例では、下あごの成長を抑えるためにチンキャップという下あごに弱い力を与える装置をできるだけ長い時間、できれば終日着用するように指示しました。またかみ合わせを治すには口の中にリンガルアーチと呼ばれる装置を入れて細いワイヤーで歯を押して前に出します。それによりかみ合わせを治します。

 反対咬合の患者では、多くの場合、下あごが大きい、骨格性反対咬合の傾向を持つため、チンリンによる治療法が一般的でした。その後、チンキャップをして一時的に下あごの成長が抑制されても、後にその分が成長する、キャッチアップするという研究が東北大学から出されました。それまで東北大学ではチンキャップの効果があると言っていたのが、教授が変わると全く逆の結論になったわけです。当時でも、欧米の研究でも、アゴが大きくなるのは遺伝的なもので、それはコントロールできない、手術で治すというのが一般的でした。日本でも九州大学の矯正科がそれに近い姿勢でした。

 現在の骨格性反対咬合の治療法は、1。 何もしないで成長が終了してから、歯の代償的な改善でなおすか、手術を併用する。2。前歯のかみ合わせのみを改善する。3。上顎骨前方牽引装置で上あごの成長を促進させる、この三つが多くの矯正専門医、大学で使われている方法です。一部、乳歯列から治療する方法(ムーンシールド)もありますが、一般的ではありません。7、8年前に学会で、反対咬合の早期治療について、テーブルクリニックがあり、全国の大学、開業医の先生と話す機会がありました。その当時でも、一番多い治療法は2番目のものでした。3番目も少しありましたが、もはやチンキャップを使っている大学はない状況でした。

 一方、実際にチンキャップを使って治療を受けた患者(歯科医)からの報告もあり、幼少の頃から成長終了するまで、10年以上、チンキャップを使うのは精神的にかなり苦痛だったようです。10時間以上使うように指示されますが、実際に使えるものではなく、その度に矯正の先生からも両親からも叱られ、治療中は未だに悪夢だったといっています。中には、チンキャップによる治療をしても結局手術になったという症例も多く、これだけ効果が未定の治療法を長期に続けるのはダメということになりました。それでも未だにチンキャップを使っている先生はいるようで、多くの患者さんは途中で使用しなくなって治療を中断します。後年、私のところに来て、あの時にもっとがんばればと後悔される方もいますが、手術になるような症例では無意味で、長期治療しなくてかえってよかったと言います。

 反対咬合の治療も、現在では世界中ほぼ同じような治療法がされています。子供の時の治療は前歯のかみ合わせのみを治す、あるいは上顎骨前方牽引装置(+上顎骨急速拡大装置)を併用する方法です。ヨーロッパの一部では機能的矯正装置を使ったり、最近では矯正用アンカースクリューを上アゴに植え、直接骨から上顎骨前方牽引装置で引っぱる方法もあるようです。いずれも長期には使わず、せいぜい1、2年の使用です。成長期をすぎると、歯の代償的な移動により治すか、手術を併用した治療がとられます。手術を併用するケースはかなり多くなり、昔は、アメリカ人はこんな症例も手術する、我々日本人は歯で何とか治すのにと言っていましたが、今は、こういって無理矢理、歯で治した症例もあごが出ているのが気になるという不満を持つようです。ボーダラインのケースは今では手術を適用することが多くなり、この点でも欧米の矯正医と診断差はなくなってきました。

 歯科治療、特に診断と治療法も次第にグローバリゼーション化しているようです。ただ一方、人種差が明らかにありtai、アジア人と白人は頭蓋骨の形態は全くことなり、特にでこぼこの治療法には違いがあるようです。ただこれもことアジア人というくくりをすれば、それほど大きな違いはなく、台湾、韓国などの治療法を見ると、どうしても抜歯が多くなるのはしかたないことです。タイでは、今ファッションとしての矯正装置がはやっているようです。“カワイイ”系のおしゃれなのでしょうが、日本でははやりそうにありません。

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