2015年3月6日金曜日

群大病院腹腔鏡手術ミスを考える


 臨床医学においては、最終的には医師、歯科医の技量が重要な素因となっていることは間違いない。治療の成功、善し悪しは、知識とともに担当医師の技量、経験に負うところが多く、それ故、コンピューターや最新機器の発達した今日においても、19世紀の医師ウィリアム・オスラーの“The practice of medicine is an art ,based on science”という格言は今も生きている。最新の医療知識、機器は患者の治療には不可欠ではあるが、それを用いた治療には患者への思いやり、手技が必要となる。

 昨今、群馬大学病院の腹腔鏡手術ミスや東京女子医大のプロポフォール鎮静剤事件など、医療ミスと思われる事件が話題になっている。特に前者は、医師の技量の未熟さを匂わせる事件であり、最新の治療法である腹腔鏡手術の手技にミスがあったようで、外科医からも厳しい批判がある。医療事故には、単なる患者、薬、器材の取扱ミス、術者の経験、知識不足あるいは想定外の変化などさまざまな側面があるが、今回の事故では、術者の経験、技量、知識不足の面が強い。

 私自身、決して技量面では自慢できるレベルではなく、おそらく公平に見て、全国の専門医の下から1/3程度と思われる。どうしてこういった判断をするかと言うと、3年程、専門医試験の審査補助をした経験による。全国から集まった症例を徹底的に調べ、評価する。合格率が10-50%くらいで、かなり厳しいテストで、合格者のレベルは高い。こうした合格者の症例と自分の症例を見比べた時に、おおよその自分の力量が推定でき、ぎりぎり合格のレベルである。全国にはものすごく技術をもった矯正医はたくさんおり、私の場合は症例数のみは多いが、きれいに仕上がった症例は少ないのに対して、若手で症例数が少なくても実にきれいに仕上げている先生もいる。試験は全くブラインドで行い、提出症例の評価だけで合否が決まる。そのため症例を見て、この先生はかなりベテランできちんとした治療をする先生だと推測して、最終面談(ここではすでに合否は決まっている)でその先生に実際に会うと、意外に若い先生で驚いたり、逆にかなりいいかげんでひどい症例(もちろん不合格)で、とんでもない先生だと想像すると、大学の教授だったりと、全く推測は当てにならない。

 それでも専門医試験を受ける先生は、ほとんどは矯正治療経験が10年以上の先生であり、ひどい治療だと思っても、それは専門医としてはどうかということであり、緩く審査すれば、合格できるレベルである。一方、一般開業医での矯正治療はというと、かなりレベルの高い先生もいるが、専門医試験に合格できるレベルの先生はいない。逆に専門医の許容範囲をはるかに越えるひどい治療が多く、問題となっている。こういった先生に限って、最新の矯正治療法をすぐにHPに載せる。結果はさらにひどいものとなる。

 “後医は名医”という言葉がある。後から診た先生は前の先生の不首尾の経過を知った上で、判断できるため、名医となる。うまくいかなかった症例に対して、後から批判することは容易いが、治療経過を十分に把握した上で判断する必要があろう。群馬大学、東京女子医大の事件でも、単なるミスとは捉えずに、学会も含めた十分な検証が必要であり、Artの観点からどうしたら、臨床レベルの向上に繋がるか論議してほしい。


 大学病院の実情は、各大学でかなり異なるため、何とも言えないが、私の経験で言えば、術前はカンファレンスなどで術式など十分に論議されているが、術後の評価は少ない。仮に術後評価があっても、身内で評価する限り、どうしても甘くなりがちである。第三者の評価、少なくとも大学病院においては、紹介先も含めたオープンな情報公開が必要であろう。私のところでも、大学病院に紹介することが多いが、術後については単に報告があるだけで、詳しい経過を知ることはなく、患者さんから術後、入院中に色々なことがあったことを後で聞くことが多い。そういった意味では、高次医療機関である大学病院では何か問題があったなら、紹介元に包み隠さず報告してほしいし、場合によっては紹介元の開業医も含めた術後カンファレンスをしてほしいところであり、こういった外部から見られる、オープンな環境こそ、医療ミスの予防につながるように思える。

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