2015年9月10日木曜日

日米の大学病院の矯正治療費



オハイオ州立大学矯正歯科(2014)
   小児、成人  検査料 450ドル  矯正治療費 3857ドル
アイオア大学矯正歯科
   学生向け患者(毎年一回、7月に学生向けの患者をスクリーニングする。スクリーニング費は30ドル)    治療費  開業医の約1/3

オレゴン大学矯正歯科
   検査費 324ドル  矯正治療費 3312500ドル
ケースウェスタン大学矯正歯科
        “ティーンエイジャーにブレースを”キャンペーン
  10歳から26歳の患者  矯正治療費3450ドル(開業医は6000ドル以上)

 アメリカの大学病院矯正歯科の治療費について公開しているところは、少ないが、概ね2500-4000ドル程度で、開業医の平均が6000-7000ドルと比較すると、約半分というのが、一般的である。治療希望者が多いので、まずスクリーニングがされ、学生実習に適した患者が選ばれる。装置料別の徴収はなく、治療の難度により教官が治療費総額を決め、治療前に前金を支払い、その後は治療終了までに全額を払う。民間保険も利用できる。学生実習向けの患者なので、診療時間はかかるし、予約もあまり自由度はない。さらに臨床研究に使うこともある。こうしたデメリットはあるが、治療内容については指導教官がきちんと責任をとり、チームで治療にあたることを強調している。

 一方、日本の大学では、ここでは国立大学の矯正治療料金を調べると、昔は全国で統一料金であったが、附属病院が独立採算制になってから、大学により料金は異なる。九州大学矯正歯科では、初診料が7800円〜、基本検査料は76500円〜、診断料は35000円〜、一期治療費は198000円〜、二期治療費は280000円〜、本格的矯正治療は440000円〜、装置調整料は5815円となっている。請負制の料金体系である。多くの大学では、これに対して装置ごとの料金を加算する料金体系である。例えば、大阪大学矯正歯科では、初診料は3090円、基本検査料78800円、診断料30900円、基本施術料が165500円、調整料5990円、マルチブラケット装置は金属ブラケットが178200円(両側)、セラミックブラケットが202400円、リンガルブラケットが501000円、保定装置が78600円(両側)となっている。東京医科歯科大学矯正歯科では、初診料が4990円、基本検査料が82782円、診断料が37878 or 80968円、基本施術料が173729円、金属ブラケットが203666円、セラミックブラケットが226800円、リンガルブラケットが551232円、調整料が6048円、保定装置料が82556円となっている。成人が、2年間の矯正治療、その後保定に2年間の計30回通院したとすれば、セラミックブラケットで約79万円、他にもよく使うパラタルバー33247円や矯正用アンカースクリュー54000円(両側)を入れると、80万円くらいとなる。リンガルブラケットの場合は110万円くらいとなる。こうした料金は、ほぼ開業医並みか、やや割高な設定である。これでは患者数を集めるのは難しいし、基礎教育に適した症例は少なく、難症例が増える。

 日米の大学病院の矯正歯科の料金を比較すると、開業医の料金はアメリカの方がやや安いが、それでも差は少ないのに対して、日本の大学病院の料金はアメリカの2倍以上となる。なぜアメリカの大学病院では費用を安くできるのか。ひとつはアメリカの矯正科大学院生の学費が高いからである。日本の国立大学では、原則的には大学院生しか入局させていないが、授業料はおよそ50万円で、アメリカの1/10である。アメリカでは3年間の専門コースの授業料は、約1500万円に対して日本の4年間の大学院授業料は200万円くらいで安い。アメリカの大学院生が一学年7名として、3年生までいれて21名で、授業料の年間収入は10500万円、日本では一学年3名として4年生まで入れて12名、授業料の合計は600万円、その差は約1億円となる。次にアメリカでは教官数が少ない。教授、准教授をいれてもパーマネントの教官数は数名で、個人のクリニックも持つものも多く、給料も高くはない。教官の不足は、大学OBに応援してもらい、授業、教育をしている。一方、日本では、フル講座だと教授、准教授、講師、助教だけで10名以上、さらに医員を含めると20名以上の有給スタッフが常勤でいる。臨床だけではこれだけスタッフは必要なく、この数分の一の数で、患者はカバーできる。日本の場合は、研究機関を兼ねているため、こうしたスタッフ数となる。実際、同じ大学院生でもアメリカの場合は、臨床が90%なのに対して、日本では臨床に割く時間は50%以下と思われる。

 医科分野でも最近は博士号より専門医の資格を目指す若手の医師が多く、臨床を中心とした教育に重点が置かれてようになってきた。日本の歯科大学でも多くの大学院生は基礎分野で学位を取るが、その方向で研究を続ける比率は少なく、研究を主体とした大学院教育あるいは大学院大学の制度は、基礎研究の意味が少ない歯学部では現状に合わないように思われる。経営的な問題はあろうかと思うが、臨床に即した大学院、専門医教育を検討してほしいところである。

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