2016年10月10日月曜日

上顎前突の早期治療に対するガイドライン(日本歯科矯正専門医学会)


 数日前のYahooニュースに「上顎前歯が突出した小児に対する 早期矯正治療に関する診療ガイドライン
http://www.mylifenews.net/medical/2016/09/minds.html)が取り上げられていました。内容は上顎前突患者への早期の矯正治療は否定されるものでした。確か日本矯正歯科学会で上顎前突のガイドラインが作成されましたが、内容に問題があるため、日本臨床矯正医会の先生方が抗議した経緯がありましたので、おかしいなと思いました。ニュースに出ていた先生方の名前があまり知らない先生でしたので、どこの団体のものか調べると、日本歯科矯正専門医学会というところでした。これは日本矯正歯科協会という団体で行われている専門医試験に合格した数十名の先生方が作った団体で、一般歯科医が無茶な矯正治療を行っているのを座視できず、治療の指針として発表したものです。

 さらに厚労省の外郭機関である日本医療機能評価機構が運営する医療情報サービスMindsにも小児歯科矯正のガイドラインとして掲載されています。歯科でも多くのガイドラインがここに掲載され、口腔がん日本口腔腫瘍学会、日本口腔外科学会が、歯周病では日本歯周病学会など、担当分野を代表する学会の教授や開業医が作ったガイドラインが掲載されていますが、今回の矯正治療のガイドラインに関わる大学教官は新潟大学歯学部歯科矯正の森田修一准教授と日本大学歯学部歯科保存学第三講座の蓮池聡助教の二名しかいません。さらに日本歯科医学会のHPには今のところ載っていないことから、学会から日本歯科医学会で審査を受け、その上でMindsに掲載するという一般的なルートをとっていないことになります。確かに大学の教授が偉いわけではありませんが、ガイドラインとして世間に発表するのであれば、その分野の専門家である、大学が中心となってまとめるのが本来の姿だと思われます。

 というのは診療分野のガイドラインは、歯学部の学生教育、これは座学や臨床実習にも関わることですし、ひいては国家試験にも関係します。今回のガイドラインで言えば、FKOやツインブロックなどの機能的矯正は、ガイドラインで否定されているわけですから、教えてはいけないし、実習もダメということになります。また学会発表、ことに症例発表では、こうした治療法を用いた発表は却下される可能性もあります。

 さらに言うと、私のような矯正専門医の中には上顎前突の早期治療を行っているところもあり、それを完全否定されると、ガイドラインを見た患者さんからクレームがくる可能性もないとは言えません。ガイドライン自体は大まかな治療指針で、そこまで強制力はないとは思えませんが、矯正治療のような保険制度に縛られない自由診療に対する一つの縛りになることを恐れます。

 上顎前突の早期治療、とくに機能的矯正装置による治療に関しては、私のブログでも度々取り上げていますが、元々はヨーロッパを中心に行われていた治療法でした。1970年代からアメリカにも紹介されましたが、アメリカではマルチブラケット装置がメインの治療法でしたので馴染めず、最近では効果が少ないという研究報告が多いようです。それでもヨーロッパでは未だに多く使われている治療法です。イギリス矯正歯科学会(BOS )でも機能的矯正装置による治療を完全には否定していませんし、ドイツもそうでしょう。完全に否定できるほどではなく、議論があるというのが世界での大方の見方と思われます。

 こうしたEBM(エビデンスベースドメディスン)による論文を中心としたガイドラインの怖いところは、早期治療に挙げられる床矯正治療、上顎骨前方牽引装置、ムーンシールド、口腔筋機能療法(MFT)、セクショナルアーチ、リンガルアーチなど、上顎歯列の狭窄に対する急速拡大以外のほとんどの治療法は、長期の追跡は難しくEBMからは否定されます。さらには早期治療、一期治療の否定に繋がるものと思われます。

 ガイドラインは本来、最大機関である日本矯正歯科学会が出すものですが、こうした団体からのガイドラインがMindsに載り、お墨付きをもらったことは残念でしようがありません。一方、ガイドラインが一般歯科医による無分別な矯正治療への警告となるかと言うと、こうした先生はガイドラインも読みませんから意味は少なく、むしろ矯正専門医への混乱を招くように思えます。私の意見はhttp://hiroseorth.blogspot.jp/2014/03/blog-post_17.htmlに2年前に載せました。また日本臨床矯正歯科医会から反論のひとつに三村先生のブログがありますhttp://ameblo.jp/mimurakyousei/entry-11761009283.html

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