2016年10月12日水曜日

矯正歯科の診断支援システムの開発を ビッグデーターの活用



 前回、上顎前突の矯正治療ガイドラインについて述べたが、おそらく将来的にはこうしたガイドラインの作成よりは、コンピューターによる診断支援システムの方が主流となるであろう。

 すでにアメリカで開発された人工知能による診断システム「ワトソン」のことがニュースでも取り上げられ、実際の医療分野での診断にも活用されつつある。こうしたビッグデーターを用いた診断支援は今後、ますます発展すると思われる。

 もう30年ほどになるが、鹿児島大学名誉教授の伊藤学而先生が、全国の歯科大学矯正科のレントゲンフィルムを一元的に集めて、頭蓋骨形態のパターン化、成長方向、量の予想に役立てようとするシステムを作ろうとしていた。当時はビッグデーターのクラウド化もなかったし、画像分析をするためのコンピューター自体あるいはシステムも未熟で、何よりどこの大学も自分のところの資料を出すのをいやがったので、何時の間にか立ち消えになった。

 矯正歯科では、患者が来れば、検査を行う。少なくとも初診時、治療終了時、保定2年後の側方頭部X線規格写真、写真、模型をとる。実際、レントゲン写真はもっと頻回に撮るであろうし、顎運動、筋電図、その他の機能検査も行う。こうしたデーターは一大学だけで、毎年数百名、全国で数千名、これまでのデーターを累積すると数十万名、さらに専門開業医の協力を得られれば、100万人単位のデーターを集めることは可能である。レントゲン写真について言えば、多少の拡大率は大学間で違うものの、ここ八十年以上は全く同じ、規格したサイズで撮られているおり、こうした同質の莫大なデーターは他の医療分野でも少ない。

 また治療計画、経過、治療結果の検査データー(模型、レントゲン、写真)、学術論文を組み込むことで、診断ツールとしてはかなり精度の高いシステムが構築できる。例えば、男女、年齢(発達年齢)、レントゲン、模型あるいは写真を、メールで送ることで、今後の顎発育の予想、治療方針、治療結果などの類似ケース、文献を知ることができる。さらに上顎前突治療のガイドラインでも少し述べたが、個々の患者により治療に対する反応は異なり、そうした鑑別も容易となる。また今までのガイドラインではその根拠となる研究は多くて数百名、大概は数十名の対象であったの対して、こうしたビッグデーターを使うことで、数万人単位の比較研究ができ、より精度が高くなる。また法医学、人類学、形成外科にも活用が期待できる。

 おそらく数十億円程度の研究費があれば、診断システムの開発はできると思われるし、そうした研究は世界でもあまりない。一挙に日本の矯正歯科学研究を進めることができるし、何より、我々歯科医だけでなく、患者にも役立つ。さらに言うなら、各大学とも過去の資料は捨てることはなく、どこかの倉庫に保存され、一部の研究を除いて、誰にも見向きもされずに眠っている。こうした資料をデーター化して活用することは、火事や地震による資料の喪失に対するバックアップともなる。


 30年前と違い、こうした矯正治療資料などビッグデーターを活用するハード、ソフトは、かなり発展している。学会で新たなガイドラインを作ることも大事であるが、こうしたより次元の高い研究、調査を日本矯正歯科学会は目指すべきであり、ひいては矯正臨床の飛躍的な発達にも繋がる。各大学でもメンツがあろうが、近年の日本の矯正歯科学の世界的な後れを取り戻せる壮大な計画となろう。

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