2017年1月9日月曜日

草花たちの静かな誓い 宮本輝


 どうも違和感の強い作品であった。作者としても初めての全編、アメリカ、ロサンジェルスの高級住宅街を舞台にしたもので、背景、登場人物もすべて外国となる。内容に関しては、あまり触れないが、突然、伯母から40億円の遺産をもらった主人公が、伯母の娘の失踪事件を掘り起こす推理小説にちかい形態をとっている。アメリカで十分に取材をしているのだろうと思われるが、アメリカ、高級住宅街、莫大な遺産など、あまりに私たちの日常の環境とはかけ離れすぎて、実感がない。アメリカに住んだことのない私にこうした作品舞台を理解できないし、庭師、ハウスキーパーが必要な大きな邸宅など住んだこともないし、ましてや40億円という莫大な金を知りうるわけがない。こうしたあまりに現実離れした設定に最初は違和感をもつ。

 本来、作者は優れた描写力により、現実にはありそうにない人間関係、舞台を表現し、その架空の世界の中で、強く人生を生きる意味を訴えるのを得意にしている。ただ架空の世界といっても、どこか現実的にはありそうな生活、ありそうな場所が、作品への愛着を生んだが、この作品ではそうした接点が少ない。また内容にも少しかかわるが、失踪事件の原因も、いかにもアメリカ的で、これも我々日本人には違和感が強い。ただ作品の終末に向けて、さすがに作者のすごさというか、うまくまとめ、当初の違和感も次第に薄れていく。またいつもの宮本さんの作品らしく、悪い人間は登場せず、人間を信じようと気持ちになれ、読後感はよい。
 
 先日、不思議なことがあった。昔、古い絨毯を扱っているお店が西宮にあり、そこの店主はイランの絨毯には大変詳しく、気に入ったものを数点、ここから購入した。ところが10年ほど前に急にリタイアし、閉店することになった。一点、非常に気に入ったイランの絨毯があったが、立て続けに古い絨毯を買う私に家内から愛想を尽かされていたため、断念した。その後、店主の娘さんが引き継ぎ、ネパールなど最貧国の支援も兼ねたお店を開いていたが、もはや古い絨毯を扱わないのか、あまり店のHPにも登場しない。そのまま10年間、近くで絨毯の展示会があれば行っていたが、いつも期待にはずれに終わり、最近では絨毯自体あまり興味がなくなってしまった。ところが先週、数年ぶりにこのお店のHPをみていると、10年前に断念した絨毯がそこに載っていた。すぐに連絡し、来週には現物が見られる。売れ残るような品物でないのに、なぜ10年も経て私のところにくるのか、うれしいことである。アルメニアというコーカサスの国の中で唯一のキリスト教の国がある。トルコやソ連から迫害され、アルメニア人は世界に散らばった。その一部の人々が住み着いたのがイラン、イスファファン近くの村で、絨毯作りに長けていたので生活のために作ったのが、チャハールマハール・バクティヤリと呼ばれる絨毯だ。100年前の絨毯が10年の間をはさんで再び会えるのは、古い友人に会ったような気がした。

 本作品の伯母さんが計画していた1か月間の日本旅行。これも興味深い。ルートは伊豆修善寺に三泊、新幹線で京都三泊、伊勢志摩に二泊、高知の四万十川沿いの江川崎に三泊、宇和島に一泊、道後温泉に一泊、尾道に二泊、大分由布院に三泊、その後、青森空港から成田に戻り、帰国というものである。高知の江川崎という聞き慣れない場所があり、なかなかいいホテルがあり、三泊は長そうだが、一度行きたいところである。また青森のどこにいくのだろうか。

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