2017年3月12日日曜日

日本の歯科は世界一

 日本に住んでいる外国人に聞くと、日本は本当に住みやすい国だと答える人が多い。安全で、きれい、生活しやすいと言う。以前は物価が高いと言われていたが、バブルがはじけて、この30年、物価上昇が少なく、結果的には住居費、食費なども安いということになった。とりわけ、多くの外国人が口を揃えて驚き、喜ぶのは医療面、医療費が安く、アクセス、サービスが優れている点である。海外、ことにアメリカでは医療費がべらぼうに高く、もし病気にでもなろうなら、それこそ破産してしまう。おちおち病気にもなれないし、なったら何とか病院に行かずに治そうとする。こうした恐怖は、日本で生活する場合は、基本的には心配する必要はない。これは生活する点では大きな魅力となる。

 こうした日本の医療制度のメリットは「日本の医療 くらべてみたら1053分で世界一」(真野俊樹著、講談社プラスアルファー新書)に詳しい。この本では、世界の医療システムを高自己負担・高医療型(高額な医療費で高度の医療、アメリカなど)、低自己負担・低医療型(あまり高度医療は期待できないが、窓口負担がほとんどかからない、イギリス、北欧)、中自己負担.中医療型(ほどほどの費用で一定レベルの医療、日本、ドイツ、フランス)の3つのタイプにわけており、著者の見解では日本はドイツ、フランスに比べて保険での医療レベルがもう少し高く、中自己負担・準高医療型としている。

 そのため、青森県にくるALT、英語の先生の中には、アメリカでの医療費が高いので、その治療のために日本で先生になり手術を受ける人もいる。おかしな話ではあるが、アメリカの手術費はべらぼうに高く、矯正歯科関係で言えば、あごの手術費はアメリカでは500-1000万円かかるが、日本では高額医療制度を使えばせいぜい8万円くらいですむ。うちの患者ではないが、実際にこうした先生がいた。日本で2年間、勤務すれば、給料をもらえた上、医療費も浮くからである。

 歯科については、海外との差はさらに大きい。低自己負担・低医療型の北欧でも、18歳以下の子供の歯科治療は無料であるのに対して、19歳以降の歯科治療は保険がきかない国が多い。中自己負担・中医療型のドイツでも負担割合が歯科処置によりかなり変化し、次第に負担率が増えており、フランス、イギリスでも同じ傾向だったと思う。歯科疾患はかなり自己管理によるもののため、自己管理を怠って、虫歯が歯周疾患で歯を失っても、それは自己責任で、自分の金で払えということのようだ。

 それに対して、日本では歯科医療も他の保険医療と同じ範疇に入り、治療法により負担率(3割)がかわることはないし、矯正治療以外のほとんどの歯科治療は保険でカバーされている。これは患者さんにとっては非常にありがたいことであるし、最近は歯科医院も増え、診療所で待たされることも少なくなり、丁寧な治療をしてもらえる。外国人が日本で歯科治療を受けると、まず窓口支払いのあまりの安さに不信感をもち、何か裏があるように思う。そして何もないこと知ると、ようやくその安さに驚く。アメリカ人は基本的には自国の医療技術を誇るが、実は矯正歯科でもそうであるが、その医療レベルはそれほど大したことはない。以前、アメリカの歯科大学、補綴大学院、開業をしていた先生が、どういうわけが、弘前大学に研修医として来ていたことがある。子供の治療のためにうちの診療室を使わせてほしいと言われ、実際の治療を見たことがあるが、こんなものかと思ったことがあったし、アメリカで矯正治療を受け、治療途中で青森に帰ってきた患者を数名、引き継いだことがあるが、治療内容はかなりおそまつであった。一部の高度な治療を行う専門医を除いて平均的なアメリカ人歯科医の技術レベルは日本と同等か、おちるというのが実際の感想である。これは医科のことについて書かれた先の本でも同じようなことが書かれている。

 このような世界で最も理想的な日本の医療システムあるが、このシステムを支える前提は安価な治療費で多くの患者をみて長時間働く医師の存在がある。ところが歯科においては、その根本となる疾患自体が急速に減少してきており、安価な治療×患者数の図式が崩れ、経営が成り立たなくなってきている。かつて12歳の子供の虫歯数は6、7本あったのに対して今の子供の虫歯(治した歯も入れて)は1本以下になっており、こうした子供達が大きくなる頃には、さらに疾患数は減る。確かに歯周疾患はそれほど減ることはないにしても、歯科の二大疾患の片方が減ることは、まちがいなく歯科医院の受診者数は減る。保険制度を維持するのは、今一層、学生には気の毒だが、出口の調整が必要となろう。昭和60年ころ、歯科医師国家試験合格者は3000人いたが、最近では2000人くらいになり、入学定員も27%減った。ただ出口をしぼっても効果がでるのはかなり先であり、それまで依然厳しい状況は続く。

 最近の歯科医院をとりまく状況については平成27年度の「歯科医師需給問題を取り巻く状況」がわかりやすい。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000075061.pdf

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