2017年6月15日木曜日

反対咬合患児の矯正治療を保険適用に!



 私が東北大学を卒業後、最初に入局したのが、東北大学歯学部小児歯科教室でした。ここに2年程いてから、矯正歯科を学ぶために鹿児島大学歯学部歯科矯正学講座に入局しました。卒業したのが1981年ですから36年前の話です。

 その当時でも、すでに小児の虫歯のピークは過ぎて、先輩の先生に聞くと、昔はもっと患者は多かったとか、東京の専門医(落合先生)に聞くと、もう生活歯髄切断などはほとんどしないと言われ、びっくりしたことがありました。仙台では、一週間で数ケース、生切をする症例があったからですし、クラウンループやディスタルシューなど、今の小児歯科の先生は見たこともないような保隙装置も結構作りました。

 その後、35年、子供の虫歯が劇的に減少し、学校健診も「この歯にはレジンが充填されているか」といった無意味のことばかりに時間がかかりますが、肝心の齲蝕チェックという点では、ほとんど“要処置歯”はなくなりました。近視と虫歯が学校健診における子供の主要な疾患でしたが、近視はほとんど変化ないか、増えているのに対して、虫歯は劇的に減少しました。

 一方、不正咬合については、これは35年前とは全く変化ありません。むしろ虫歯が減ったため、より指摘される、あるいは親が気にすることが多くなりました。そのため、以前は5、6月の学校健診が終了すると、歯科医院に虫歯治療のため来院しましたが、今や不正咬合で来院する子供が多くなっています。

 さすがに、不正咬合の治療、矯正治療に保険がきかないというのはほとんどの人が知っていますが、それでも歯科医院に行き、矯正治療費を聞いて、諦める人も多いと思います。さらにいうと、ある程度の収入のある人は、その子供に矯正治療を受けさせるとなると、将来、歯並びの悪い子は、そうした環境でなかったと証明するようなものです。実際にアメリカではそうしたことになっています。子供にとってマイナスなことです。また被保険者、ことに若い世代からすれば、保険負担料を支払っているのに、自分の子どもの歯科治療(矯正治療)に保険が使えないのはおかしいと思うのは当然です。

 それ故、子供の不正咬合の治療(矯正治療)が保険治療に入ることを反対する若い世代はほとんどいませんし、経済的にも大変助かることになります。ただ問題は、不正咬合が病気、疾患かということです。現在、保険適用がなされている唇顎口蓋裂、顎変形症の不正咬合では“咀嚼、発音障害”の機能的な障害があるために保険適用となりました。物が咬めない、発音がしづらいということです。さらに顎変形症では、顎運動測定、筋電図測定などの機能検査を義務付けています。この論理からすれば、保険適用の不正咬合は少なくとも前歯での咬合のできない反対咬合、上顎前突、開咬と臼歯で咬合しにくい交差咬合となるでしょう。上顎前突の定義はやや難しいので、最初の保険適用の不正咬合は、オーバージェットをマイナス以下の反対咬合とすべきです。頻度は統計により違いますが、2-5%くらいで、クラスで一人くらいでしょう。

 日本の出生数が百万人とすると、反対咬合の子供は約20000から50000人。唇顎口蓋裂の保険点数で換算すると6、7歳から1718歳までの十年間の治療費が60万円くらいで、年間6万円くらいとなります。すなわち、反対咬合の患者を保険診療でするとなると、6万円×2−5万人×10年=120億から300億円になります。国民医療費40兆円の0.03から0.08%となります。自衛隊が購入する新型戦闘機B-35一機分の価格にも達しません。
 日本歯科医師連盟や学校歯科医師会なども、多くの予算を持っています。歯科医師連盟でも事務員の給与が平均で1000万円近く、また政治資金も数億円単位で払っています。是非ともそのうち1000万円でも、矯正治療の保険適用のシュミレーション研究費に予算を廻してもらい、その結果をもとに厚労省と折衝して、せめて反対咬合の小児については保険適用にしてほしいところです。自民党、民進党の議員、ことに女性議員には賛同してもらえるものですし、大きな反対事項もありません。

 予想させてもらうと、矯正治療の保険適用は、これまでの施設基準の延長で、唇顎口蓋裂、顎変形症の歯列矯正の適用範囲の拡大ということになりそうです。日本矯正歯科学会の認定医制度は他団体の横やりで頓挫しており、今のうちに反対咬合の保険適用を決めてしまえば、少なくとも施設基準に日本矯正歯科学会認定医の資格は必要なく、すべての歯科医による矯正治療を認められます。そうした意味でも一般歯科医にも恩恵のある制度にするためには早急な適用が求められます。ただ歯科用セファログラムの設置は施設基準に盛り込まれるでしょうし、骨格性反対咬合の有無を調べるためには必要でしょう。パントモデジタルにセファロを付け加えるとなると、2、3百万円はかかるので、ある程度の歯止めになると思います。

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