2017年11月12日日曜日

土屋嶺雪

右が「唐美人とオウム」、左が「楠木正成」



「榴とリス」



 土屋嶺雪については、ほとんどわかっていないが、作年の1月に兵庫県加古川市の市立松風ギャラリーで開催された「播磨ゆかりの日本画家3人展 福田眉仙×森月城×土屋嶺雪」の冊子にくわしく解説されているため、引用したい。

土屋嶺雪 明治14(1881)〜昭和40年(1965
埼玉県南西部の川越出身で、のち東京に転居したと伝えられる。本名は時造。大正12年(1923)当時の本籍地は東京市京橋区南鞘町(現東京都中央区京橋)。関東大震災で戸籍が焼失し、それ以前は不明。大正6年(1917,七女が兵庫県明石郡明石町ノ内大明石村(現明石市)で生まれており、同年以前に明石町に転居したと推測される。橋本関雪に師事したと伝わるが裏付ける資料は見出せない。嶺雪の作品「おもちゃ」の落款に「錦江城南荘」(錦江城は明石城の別名)、出品票住所欄に「明石市鍛冶屋町」とあり、当時、鍛冶屋町に住んでいたことがわかる。昭和11年(193671日、神戸元町の寺井絵具店発行の月刊「放光」に「山水人物風景可ならざるはなき練達の土屋嶺雪先生」と見え、神戸周辺で活躍した様子がうかがえる。昭和18年(1943)、加古川運輸株式会社解散記念のため「千紫万紅」(花帖14図)を描いている。昭和20年(1945)、明石郡魚住村中尾(現明石市魚住町中尾)に転居(実際の転居時期はそれ以前か)。転居後、「魚住村荘」と記す作品が見られる。昭和40年(1965)、84歳で逝去。

 土屋嶺雪の作品、大正12年作の「唐美人とオウム」については、過去のブログで紹介した。その後、二点ほど嶺雪の作品をオークションで購入したので、作品の解説をする。

 最初の絵(右)には解説(賛ではない)があり、それを見ると、“於神戸市大正十四年四月に本勧業博覧会記念全国煙火大会為優勝者”と読める。調べると大正十四年三月十五日から四月三十日まで、大阪毎日新聞社が主催して天王寺公園と大阪城で大大阪記念博覧会が行われた。東成郡と西成郡が合併され大阪市の市域拡張を記念したもので、神戸でも花火大会が行われ、その優勝者にこの掛軸が賞品として渡されたのだろう。前述の嶺雪の履歴を見ますと、大正六年ころから兵庫県明石市に住んでいたことがわかり、明石と神戸は近く、こうした賞品の絵を依頼される接点があり、その後も神戸での仕事があったようだ。この作品は、大正12年の作品「唐美人とオウム」と並べてみると、画題は全く違うが、作風は非常に似ている。後醍醐天皇が元弘三年に京都に凱旋する際に、兵庫に出迎え、同道警固を勤めた場面で、遠景に篭に乗る後醍醐天皇とそれにつく従者達の姿を荒く描き、それを迎える楠木正成と従者がうやうやしく待つ姿を丁寧に描いている。巧みな画面構成でうまいと思う。明治頃にはやった楠木正成の錦絵にも「兵庫で輦輿を奉迎の場面」とあり、神戸での花火大会にはふさわしい画題であろう。

 もう一つの作品「リスと榴」は、落款は「楠木正成」と少し違うが、落款“嶺雪”は完全に一致する。ギャラリー冊子には、梅、猿、狸あるいは鯛を描いた作品が載っているが、こうした動物画も嶺雪は巧く、この作品でもリスの愛らしい姿が、毛並みも含めて十分に表現されている。それに比較して榴や木の表現は“たらし込み”のテクニックを使い、輪郭をあまり書かず、全体的には軽やかな印象を持つ。「唐美人とオウム」や「楠木正成」とは、表現法が異なり、年代的にはもっと後のような気がする。榴(ザクロ)は多産と豊穣の象徴とされ、昔から子がない夫婦に「榴」の絵は喜ばれた。榴と鳥のコンビは散見されるし、またリスとブドウのコンビも多産、多幸を象徴するため多くの作品があるが、リスとザクロのコンビは珍しい。意味は同様であろう。ただ榴の木は画題になりにくく、枝であればまだいいのだが、どうも幹は捩じれていて、絵としてはしまらない。画面構成はうまくいっていない。

 大正から昭和にかけた日本画家は、現在、横山大観、川合玉堂など一部の画家を除き、人気は全くない。家に和室、床の間がなくなったことも理由の一つであるが、まず買う人がいなくなった。家を訪問すると、奥の客間に通される。そこの床の間には季節の合った掛軸を飾られ、主人が来ると、掛軸を褒め、その由来の説明を受ける。眼の肥えた客も来るため、大きな商家になると、変なものは家に置けないので、そこそこの金を出して、優れた掛軸を購入する。橋本関雪の軸がないと格好がつかないという時代もあった。ところが、現在では、こうした掛軸は画題も古いということもあるし、飾るところもないこともあるが、何より全く関心がない。あるには私のような骨董マニアのような人で、美術に関心のある人は興味ない。一方、海外の方から見ると、日本の西洋画が自分たちのイミテーションのように感じ、日本では高い評価を持つ画家も世界的には評価されていない。むしろ北斎や若冲のような日本的な画家の方がずっと評価が高い。

 とは言っても、昨今の日本画の暴落は、上記のような作品も1万円前後で買えるのでうれしいことだ。これだけ安いと、いずれ外国人による買い付けが盛んになり、日本画の海外への流出が始まるだろう。

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