2018年4月24日火曜日

弘前市芸術文化施設 ヒロサキアートセンター

 



 いよいよ吉井町煉瓦倉庫がヒロサキアートセンター(仮称)として生まれ変わる。設計者は、若手の注目株、田根剛で、総合アドバイサーに森美術館館長の南條史生があたる。開業から15年間の運営費、維持管理料を含めて予算40億円のビックプロジェクトで、年間67000人の入場者数を見込んでいる。現在ある、煉瓦倉庫を展示室、スタジオ、美術館とし、その隣にシードルカフェを新設する予定であり、工法の詳細は不明であるが、現在ある古いレンガ壁を耐震補強したレンガ壁で覆うよう構造で、屋根がシードルゴルードの色となる。欧米ではよくある古い歴史的建造物をリフォームした美術館だが、日本では数少ないものとなる。今年の5月から工事は着工され、来年の秋には完成、2020年春にオープン予定となっている。

 新美術館は弘前観光の目玉となり、毎年500万人近い観光客が弘前を訪れるので、美術館への67000人、入場見込みは誇張ではない。ただ観光という側面だけで言えば、2030年先には次第に時代遅れで陳腐化することは目に見えている。昨今、美術館ブームの乗り、多くの美術館が建てられたが、その後、寂れていく事例は多い。いかに市民の中に馴染むか、特に若い人に支持されるかという点が大事である。若い人にとって自慢できる、愛着のある施設であり、常に変化して新しくならなくてはいけない。私は、新美術館は観光客の誘致という以上に、新美術館に付随する町の雰囲気、おしゃれな街といったイメージを若者に持ってほしい。また子供達にも東京に行かなくてもモダンな文化、雰囲気を体験してもらいたいのである。そのため、流行の最先端のアイデアで作られ、運営する必要があり、地元のメンバーで不可能なら東京からメンバーを招聘して作ってもらうしかない。今回の新美術館のメンバーの一部には、問題のある方がいて地元の顰蹙をかっているが、それでも弘前の新美術館のことは色々な雑誌や美術誌などではすでに話題になっている。おそらくオープニングは奈良義智の作品を中心とした展示をするだろうが、全国から多くのファンが集まるであろう。

 一方、新美術館が建設されことになっても問題はあり、まず弘前市立博物館との役割分担、つまり博物館に歴史資料だけでなく、郷土作家を中心として作品が多くあるが、それを新美術館に移行するのか、はっきりしていない。さらに総合アドバイザーが自分の会社(エヌ・アンド・エー)内にある準備室・広報事務局に弘前芸術創造株式会社を作り、その代表を不動産会社の役員にするのはどうか。同社は、十和田市現代美術館の運営とも兼ねており、十和田現代美術館と全く違う内容、企画を明確に出せるのか。少なくとも館長は、こうした企画会社の言いなりにならない、地元のことを優先し、愛する人物になってほしい。また新美術館と連動して弘南鉄道中央弘前駅周辺を整備するようだが、民間企業に対して公的にどこまでで援助するか、これは大鰐線の存続まで含めた幅広い議論が必要となろう。

 新美術館では、単純な美術品を展示してそれを鑑賞するという旧式なスタイルではなく、参加型の施設を目標にしている。それには市民の美術館への関心を高める必要があり、アメリカの美術館の多くは市民の寄付金で作られ、運営されており、少しはそうした姿勢は学ぶ必要があろう。この煉瓦倉庫でおこなわれた奈良義智の”A to Z”では資金や実際の作業も多くのボランティアが参加した。設計、企画について、ことさらに東京の人を毛嫌いする必要はないが、そうかといって今のように芸術は田舎者はわからないと東京の専門家だけで進め、市民が無関心のまま推移するのはどうかと思う。参加の主体となる若者を新美術館運営のメンバーに入れるなり、”A to Z"にような運営組織を作るなり、もっと積極的な関与が望まれる。何より弘前出身の奈良美智さんが企画、運営メンバーを離れたことは残念であり、できれば復帰を御願いしたい。個人的には美術館の前の広場で大きなスクリーンを作り、夏の夜、野外の映画放映をしてほしい。ローマの休日などシードルを片手に見たいものである。是非とも新市長のもと、全国に誇れるような美術館にしてほしい。

2018年4月21日土曜日

鈍感な人間


 先日、昔、昔、48年前に亡くなった同級生のことを夢に見た。彼女は小学校5、6年の時のクラスメートで、僕が委員長をした時は、副委員長、副委員長をした時は委員長と交互に代わるような関係だった。成績がよくて、私立の女子中学校に行くとばかり思っていたが、どういう訳か地元の公立中学校に進学した。僕は、中学校が遠方だったので毎日6時に起きて、朝650分くらいのバスに乗った。中学一年の秋ころだったか、近所のバス停で待っていると、一度だけ彼女を見た。彼女はこちらのことを気づいていないのか、そのまま通り過ぎた。その半年後、小学校の知人から彼女が腎臓病、ネフローゼで亡くなったのを知った。僕の実家の2軒隣の病院で亡くなったという。わずか13歳の命だった。

 夢の中では20歳くらいに成長した彼女が教会の椅子に座っていた。「びっくりした。死んだとばかり思っていた」というと、彼女は笑って「死んじゃいないよ。今は名古屋の住んでるの」という。彼女は小学校の時は、非常におとなしく、ほとんどしゃべったことはなく、夢の中での饒舌な彼女に驚き、大人になって変わったなあと夢の中で思った。妙にリアリティーのある夢で、久しぶりに旧友になったような幸せな気持ちになった。

 この歳になっても、自分でなさけないと思うのは、人の気持ちにあまりに鈍感なことである。彼女の場合も、クラスの女子は皆、病気のことを知っていたと思うし、男子でも何人かは知っていたのだろう。ただ僕は全く知らなかった。亡くなるまで一切知らなかった。一番、残念に思ったのは、僕の実家の二軒隣の病院に入院し、亡くなったことだ。それこそ歩いてものの1分で会えた。少しでも彼女の病気のことを知っていれば、友人に聞くなりして小学校卒業後も彼女の経過を知っていただろう。彼女も広瀬歯科医院と看板があるので僕の家のことは入院中も知っていただろう。

 中学から高校まで毎日、六年間一緒に阪急電車で通学した友人がいる。数年前に彼と久しぶりの会った折、中学3年のころ母親が亡くなり、当時、父親と対立し、精神的にかなりやばかったことを初めて聞いた。この話を聞くまで、全く彼がそうなっていたことは気づかなかった。鈍感な人間である。表面的に何事もないように振る舞っていても、敏感な人であれば、彼の気持ちの乱れはわかったであろうが、僕はその後、30年以上経つまで気づかなかった。我ながら、人の気持ちがわからない鈍感な人間である。

 話が変わるが、テレビ朝日の女性記者が、財務省次官のセクハラを週刊新潮で暴露した。色々な問題はあるが、なぜテレビ朝日では自社の女性記者の訴えを取り上げなかったのか、疑問である。上司は女性であったという。先日、弘前の弁護士に聞いたところ、元財務次官が週刊新潮を名誉毀損で訴えれば、ほぼ勝つ(政務次官が)という。30年程前、ロス疑惑で三浦和義さんが殺人などで多くのマスコミで取り上げられた。その後、三浦が名誉毀損でマスコミ相手に数百の裁判を行い、ほとんど勝訴した。これが今でも判例となり、今回の週刊新潮の場合、民事では名誉毀損で勝てるようだ。調べると週刊新潮は多くの事件において名誉毀損で負けている。というより名誉毀損で百万円くらい払ってもまったく気にしない会社なのである。それに引き換えテレビ会社はこうした無法な方針は取れないので、女性記者のセクハラ問題を無視したのであろう。今回の場合も元財務次官は職を失ったばかりか世間的評判は一気に落ちた。これを金で換算するとどれくらいになるかわからないが、これまでの判例では支払額は数十万円から百万円くらいとなる。これが数千万から数億円になると週刊新潮でもこうした記事は書かなかったと思われる。

 セクハラといのうは、本人の気持ちの問題であり、同じ言い方をしてもセクハラと捉える女性もいれば、全く気にしない女性もいる。私のような鈍感な人物は、よくよく注意しないといけないことである。

2018年4月12日木曜日

ホームページと矯正歯科料金


 最新の医療広告のガイドラインによれば、矯正歯科のような自由診療を広告する場合、“公的医療保険が適用されない旨と標準的な費用の併記が必要”となっており、さらに“標準的な費用は、窓口で実際に支払う費用の総額がわかるように記載”となっている。他より安い、半額といった費用を強調した品位を損ねる内容のものは厳に慎むべきとしている一方、費用に関する事項は患者にとって有益な情報であるので、必ず記載しなくてはいけない。ここでいう標準的な費用というのは、その地区、東京での平均の値段ではなく、その医院の平均的な費用のことを指す。治療法によって費用が違う場合は、例えば唇側矯正治療はいくら、舌側矯正治療はいくらとおおまかな費用を記載する。実際の治療に入って、ホームページあるいは説明時と費用が違うと患者は困るため、そうしたことがないように標準的な費用をきちんと記載する。

 さらに今年二月に発表された指針では“自由診療は保険診療として実施されるものとは異なり、その内容や費用が医療機関ごとに大きく異なり得るため、その内容を明確化し、料金等に関するトラブルを防止する観点から、当該医療機関で実施している治療等を紹介する場合には、治療等の名称や最低限の治療内容・費用だけを紹介することにより国民や患者を誤認させ不当に誘引すべきではなく、通常必要とされる治療内容、標準的な費用、治療期間及び回数を掲載し、国民や患者に対して適切かつ十分な情報を分かりやすく提供すること。標準的な費用が明確でない場合には、通常必要とされる治療の最低金額から最高金額(発生頻度の高い追加費用を含む。)までの範囲を示すなどして可能な限り分かりやすく示すこと。また、当該情報の掲載場所については、患者等にとって分かりやすいよう十分に配慮し、例えば、リンクを張った先のページへ掲載したり、利点や長所に関する情報と比べて極端に小さな文字で掲載したりといった形式を採用しないこと。”となっている。

 全く知らないレストランや飲み屋で料金表がないとどうであろうか。相当、不安になるであろう。最近ではインターネットなどで大体の値段を知ってから店に行くので、それほど料金で不安になることはないが、昔は旅先で、食べる、飲む場合、知らない店の暖簾をくぐるのは大変勇気がいった。

 保険治療は全国共通で、なおかつ3割負担であり、その費用をいちいち患者に説明する、あるいはHPに記載する必要はないが、自費診療の費用については、レストラン、飲み屋の料金表と同じく、医院によってかなり違い、さらに患者にとっても最も関心のあるところであり、厚労省もインターネット広告では必要な情報と認知している。もっと言うなら、歯科ではインプラント、矯正治療をホームページで宣伝する場合は、必ず標準的な費用を明示すべきとしている。患者にとって矯正治療にいくらくらいかかるかは、ホームページから得られる最も重要な情報であると言ってよい。ところが実際に歯科医院のホームページに標準的な矯正料金を記載しているところは多くない。

 個人的には矯正治療を普及させるためには、ことに料金的なトラブルはできるだけ減らしたい。そのためにはホームページ上には標準的な料金表は必ず載せるような歯科医師会などで指導すべきであるし、転医、中断の場合の料金の清算、再治療の料金無料、低額などについても、どこの歯科医院で矯正治療を受けても普通になってほしい。歯科医院によっては、矯正治療は難度や治療法によって費用が違い、それをすべて記載するのは難しいというが、実際、治療を始める前に患者には料金の説明をするのだから、大まかな費用は書けるはずである。多くの矯正歯科医院の料金体系では、相談料、検査診断料、基本治療費、保定装置料、調整、観察料なので、2、3年間の治療費の総額は大体、決まる。一期、二期にわける場合は、中には一期のみで終了する場合もあるが、それでも一期、二期のそれぞれの基本治療費は記載できる。さらに調整料、観察料をとらない一括料金制をとっているところは、舌側矯正、インビザラインなど特殊な治療法の加算以外は、患者、期間によって変わらない同一料金となる。問題は装置別の料金をとっているところである。この場合、総額を提示するのは非常に難しく、個々の装置の費用を掲載することになる。そもそもこうした料金体系は患者に最終的にいくらかかかるかわからないため、あまり良い方法ではなく、大学病院でも私立の歯科大学の多くは一括料金になっている。残念なことに国立大学では未だに装置別のところが多いが、それでも成人、子供、治療法による平均治療費は簡単にでるし、細かく言えば平均と最小、最大、標準偏差は出るので、むしろそうした数値をホームページに載せるべきであろう。

2018年4月9日月曜日

矯正治療の主流 マルチブラケット法


 歯の一本ずつにブラケットと呼ばれる矯正装置をつけて、ワイヤーやゴムを使って歯並びを治す治療法をマルチブラケット法と呼びます。他にも多くの治療法がありますが、このマルチブラケット法が矯正治療の主流であり、私のところでの治療では7割はこの治療法です。おそらく全世界の矯正専門医歯科医院においてもこの比率は変わらないか、もっと高いかもしれません。すなわち、矯正治療の主たる治療法は、このマルチブラケット法であることは間違いありません。

 なぜこの治療法がメインの治療法かというと、応用範囲が広く、一本、一本の歯、あるいは歯列全体を移動し、最終的には理想咬合にもっていくには最もふさわしい治療法なのです。オリジナルは1920年代にアメリカのアングル先生により開発されました。当時はすべての歯にバンドを巻いて装置をつけていましたが、これは日本人の誇りですが、東京医科歯科大学の三浦不二夫先生の発明によるダイレクトボンディング法の発明により、ブラケットを直接、歯に接着できることができました。そのため今では金属のブラケットに代わって透明、白いブラケットが登場しましたし、外からは見えない舌側矯正もできました。アングルの発明以来、百年、手間や患者への負担は減りましたが、基本はほとんど代わっていません。インビザラインなどマルチブラケット法に代わる方法もでてきましたが、未だに主流とはなっていません。

 そういう訳で、20年程前までは矯正治療=マルチブラケット法で、一般歯科医に対する講習会もほぼマルチブラケット法の講習会でした。私も鹿児島大学にいた頃は、何度か講習会で教えました。ただマルチブラケット法の修得は本当に難しく、当時も教えはしたのですが、難しく、講習会終了後の感想を求めると、難しくてできませんという声が多かったと思います。まずブラケットの種類だけで数百種類以上ありますし、矯正材料メーカーの厚いカタログの大半はマルチブラケット装置に関係するもので、メーカーも十以上あります。このカタログを理解できるために大学の矯正歯科の医局に2年以上、在局しないと無理でしょう。

 こうしたこともあり、20年程前までは矯正歯科治療は、矯正歯科医院でするという流れでしたが、20年程前から床矯正治療の人気が出てきました。床矯正治療はもともとマルチブラケット法が日本に上陸する1960年までにやられていた古い治療法で、ヨーロッパでも1970年ころまでやっていました。比較的簡単な方法で治療できるため、日本で最後までやっていたのは大阪歯科大学で、1980年代までしていました。今では全国の矯正歯科、あるいは欧米の矯正歯科で床矯正歯科がメインになっているところはありません。25年前に矯正歯科治療と顎関節症の因果関係、すなわち矯正治療をすることでアゴが痛くなったという訴訟があり、その際の被告人の証人として歯を抜かない、取り外しのできる装置を使っている極めて稀な矯正歯科医が登場します。結果は忘れましたが、当時、アメリカ矯正歯科学会はやっきになって矯正治療と顎関節症の因果関係を否定しました。

 現在、歯科雑誌をみていても、一般歯科向けのマルチブラケット法の講習会は減っています。それに代わってマルチブラケット装置を用いない機能的矯正装置、床矯正装置、拡大装置、あるいは機能訓練などの講習会の人気があります。こうしたマルチブラケット装置を使わない治療法は有効な場合もあるとは思いますが、欧米、日本でも一番、不正咬合の治療に従事している矯正専門医が使わなくなったのは、適用範囲に無理があるからです。そのため日本矯正歯科学会でも抜歯、マルチブラケット法の症例を認定医、専門医の課題として審査しています。もちろんマルチブラケット法ですべての症例は治療できませんが、これに外科手術を併用することで、ほとんどの症例の治療が可能になります。一方、マルチブラケット法を使わないで、機能的矯正装置、床矯正、拡大装置、機能訓練だけで専門医試験にパスするような咬合状態になるには経験上20%はいかないと思います。マルチブラケット法ができないで矯正治療を行う歯科医は、問題があると思います。